京美同活動ノート

京大美少女ゲーム同好会のブログです。週1より早いペースでの更新が目標です

「届かない恋」考察

 

 

1. はじめに

こんにちは、京美同のやぎ(@GOATMUSASHI)です。

 

前回執筆の「WHITE ALBUM2 聖地巡礼記録(新宿、成田編)」

 

前々回執筆の「WHITE ALBUM2 入門ガイド」

につづき、またまたWA2ネタです。

見直すたびに新たな発見やネタが見つかる作品なので、いろいろ書けますね。

 

今回は、作中曲として登場し、シナリオにおいても重要な役割を果たす「届かない恋」についての考察記事です。

作中におけるこの曲の影響に触れた後、この曲の歌詞について考察します。

がっつりネタバレあり、そして文章量も多いですが、読んでいただけると嬉しいです。

 

2. 作中における各主人公の反応、曲の影響

「届かない恋」は「WHITE ALBUM2 -introductory chapter-」(以下IC)において、学園祭ライブにおける3曲目、ラストナンバーとして登場します。

アニメ版のかずさの台詞、「北原が詞を書いて、あたしが曲をつけて、小木曽が歌う、三人のためだけの歌、だ」という一文がこの曲の説明としてはこの上なく適切ではないでしょうか。

 

この曲については、本作の追加コンテンツである、デジタルノベル「届かない恋、届いた」、及びボイスドラマ「祭りの前 ~ふたりの二十四時間~」の2つが本編の補足として重要な役割を担っています(EXTENDED EDITIONを買って楽しみましょう!)。

 

2-1. 春希視点

作中セリフを踏まえると、明らかにこの歌詞は、春希がかずさを想って書いたものになっています(「紡ぎ出す言葉の端々から、特定の人物が溢れ出していた」「思い描いてしまっているのは、どう見ても実在の、春希のお隣の少女」)。

 

しかし、春希はその想いをぼかしていて、一人称は登場しないし、二人称は「あなた」となっています。

さらに、デジタルノベル内のセリフを見ても、「この詞の主人公は北原春希じゃない」、「『あなた』は、春希の隣の席で、ギターを教えてくれた冬馬かずさじゃない」、「決して届かないひとに憧れる、平凡な人間の物語」と想いをぼかしていることが、ここまで強調して描写されています。

 

2-2. かずさ視点

こうして春希がかずさを想って書いた詞を受け取ったかずさは曲を作ります。

 

しかし、詞を読み、曲を作る際には、かずさがこの詞が誰を想って書いたのか気づいていないことがデジタルノベル内で名言されています。

その理由として、歌詞を春希が書いた時(=夏休み、軽音楽同好会の再結成前)とは違って、今のかずさは孤独ではないこと、心を開いていることが要因として説明されています。

 

2-3. 雪菜視点

こうして春希が詞を書いて、かずさが曲を書いた「届かない恋」を受け取った雪菜。

 

デジタルノベル内の「優等生の少年が、窓際の不良少女に、不器用な恋心を抱き、その伝わらない、伝えるのが恥ずかしい、でも伝わって欲しい気持ちをそのまま文字にしただけの、あまりにも見え見えな告白台詞だったから。」という文から、すぐにこの歌詞の意味に気づいていることがわかります。

 

同時に、春希は雪菜に対して恋心を持っていないこと、そして、かずさが春希の想いに気づいていないことも理解します(「優等生の少年の視線の先に、一月まえに知り合ったばかりの、別のクラスの少女の姿が映っていないことに」、「主人公の想いは宙に浮いたまま、未だにヒロインに届いていないのだと」)。

 

2-4. この曲の影響

この曲により、雪菜は春希のかずさに対する想いを確認し、かずさが春希の想いを理解してしまえば、この二人の恋が容易に実ることに気づきます。

そして、そうなってしまえば、軽音楽同好会の三人から春希とかずさの二人が抜け出してしまい、自分がまた一人になってしまうという、自分が最も恐れる事態が起こると考えます。

 

だからこそ、かずさが学園祭後に寝ている春希にキスをし、好意を見せている様子を見た雪菜は、春希がその好意に気づく前に、自分が春希の恋人になってしまおうと考えます。

それが学園祭後の雪菜の告白シーンにつながっていきます

 

なのでこの曲が三人が三人でいられなくなったきっかけといえます。前述の「三人のためだけの歌」という台詞を考えると皮肉なものですね。三人のための歌が三人の関係性を壊してしまうのですから。

 

2-5. 補足説明

主な描写はIC作中でありますが、デジタルノベル「届かない恋、届いた」でのみ描かれる描写も多いです。そして、ボイスドラマ「祭りの前 ~ふたりの二十四時間~」でも同様の描写、声のみなのに感情の変化がよく表れています。

 

また、この曲をめぐる雪菜の心境についてはTVアニメ版6話の演出が非常に丁寧に描いています。

雪菜が曲を渡されるシーンにおいて、雪菜は春希とかずさの声が遠くに聞こえ、歌詞を読み込む。そしてこの歌詞の意味に気づいている様子のない、かずさの表情を見て、最後に下唇を噛みしめてから無理に笑顔を作る。そして、「夢は、大事だよね」といって曲の練習に入る。

といったように、この一連のシーンが雪菜の心を説明するシーンがないにも関わらず、あまりによく描写されています。

 

天才的な演出であるのですが、あまりに短いシーンのため、見逃していた方も多いかもしれません。dアニメストアで配信中なのでぜひ見直していただきたいです。

 

ゲーム版では、このシーンはかずさの 「北原が詞を書いて、あたしが曲を着けた、小木曽のためだけの歌、だ」という台詞に対し、雪菜がいつも以上の真剣な表情で、「………頑張って、わたしたちの曲、完成させよ?」と返すものになっています。

 

適当に流していると、この時の雪菜の心境に気づかずに流してしまうプレイヤーも多いかもしれないため、そのことを考慮して、アニメ版ではこの時の雪菜の心理描写をよりはっきりさせていると考えられます。

 

3. 考察

ようやく作中の扱いの説明が終わったので、歌詞の考察に移ります。

軸となるのは、「この曲は誰が、誰を想った歌なのか」、という点です。

様々な解釈があり得るため、結構考察していておもしろいです。

 

「届かない恋」 作詞:須谷尚子 作曲:石川真也

 

・1番

孤独なふりをしてるの?

なぜだろう  気になっていた

気づけば  いつのまにか

誰より  惹かれていた

 

どうすれば  この心は  鏡に映るの?

 

届かない恋をしていても

映しだす日がくるかな

ぼやけた答えが  見え始めるまでは

今もこの恋は  動き出せない

 

 

・2番

初めて声をかけたら

振り向いてくれたあの日

あなたは  眩しすぎて

まっすぐ見れなかった

 

どうすれば  その心に  私を写すの?

 

叶わない恋をしていても

写しだす日がくるかな

ぼやけた答えが  少しでも見えたら

きっとこの恋は  動き始める

 

 

・3番

どうすれば  この心は  鏡に映るの?

 

届かない恋をしていても

映しだす日がくるかな

ぼやけた答えが 見え始めるまでは

今もこの恋は  動き出せない

 

3-1. 春希からかずさへの歌

まずは春希がかずさを想う歌、という解釈。

作中での扱いの通り、一見この解釈が王道のように思われます。

1番の歌詞から考えても、この解釈となるかと思います。

 

・1番

孤独なふりをしてるの?

なぜだろう  気になっていた

気づけば  いつのまにか

誰より  惹かれていた

 

どうすれば  この心は  鏡に映るの?

 

届かない恋をしていても

映しだす日がくるかな

ぼやけた答えが  見え始めるまで

今もこの恋は  動き出せない

 

孤独なふりをしているかずさが気になり、一方的に接していくうちにいつのまにか誰よりも惹かれてるようになる。

春希が好意を寄せていても、その恋がかずさに届いて、かずさの好意が見え始めるまでは、自分から動き出せない。

というように、ICにおける春希のかずさに対する行動そのままを書いた歌詞であるようにみえます。

 

ただし、2番の歌詞に入ると、この解釈には違和感を覚えることになります。

 

・2番

初めて声をかけた

振り向いてくれたあの日

あなたは  眩しすぎて

まっすぐ見れなかった

 

冒頭の歌詞は上記のようですが、このような描写は春希のかずさに対する行動とは一致ません

春希は初めてかずさに声をかけたときには特別な感情を抱いていない、「まっすぐ見れなかった」なんてこともないです。

 

3-2. かずさから春希への歌

そのことを踏まえ、改めて2番の歌詞を読むと、かずさが春希を想う歌としての解釈ができるのではないでしょうか。

 

先ほど挙げた2番冒頭の歌詞、この描写はTVアニメ10話のかずさの様子が一致します。

夏休みにギターの練習をしている春希、そこでかずさが初めて春希に自分から声をかける。そこでかずさは自分から声をかけたことの照れ隠しから顔をそむける。

歌詞そのままの行動です。

 

その後の歌詞も、学園祭後のかずさの春希への想いの描写としてこの上なく正しいです。

 

叶わない恋をしていても

写しだす日がくるかな

ぼやけた答えが  少しでも見えたら

きっとこの恋は  動き始める

 

春希と雪菜が付き合っているから叶わない恋、でもその恋が実る可能性が少しでも見えたら、動き始めてしまう。学園祭後からIC終わりまでのかずさの行動の歌詞になります。

 

そして、1番と2番の歌詞の「この心は鏡に映るの」→「その心に私を写すの」という言葉の変化の意味を考えます。

 

印象として、2番のほうが、想いが強烈だと感じます。

「鏡」に対し「私」という直接的な表現を使う時点でなかなか強烈ですが、「映る」と「写す」の意味の違いも大きいです。

 

「映る」は「ものの姿や影を現しだす」意味なのに対し、「写す」は「あるものをそのまま、または似せて表す」意味である。このことから、1番は「かずさに自分のことを想ってほしいという」春希の想いなのに、2番は「春希に音楽面ではない、自分のありのままの姿を見てほしい」というかずさの想いを描いていると考えられるのではないでしょうか。

 

そしてかずさのこの想いはICからCodaまで一貫して描かれるものです。これらのことを考えても、やはり2番はかずさが春希を想う歌としての解釈を推したいです。

 

3-3. 雪菜からかずさへの歌

さて、作中主人公の三人の中で、雪菜だけは歌詞の中に登場しません

さらに、作中でもこの曲が春希がかずさを想う歌だと気づいています

そして、学園祭ライブ時には、春希の夢をかなえようとするかずさの姿を見て、自分もその夢を叶える手伝いをしようと考え、初めて三人が合わせた、WHITE ALBUMの続き、あの時導いてくれたギターとピアノへの恩返しとして歌います

 

このことから考えると、この曲は彼女の歌ではないでしょう。

 

しかし、ICラストのかずさとの別れをもって、この曲は雪菜の歌、雪菜がかずさを想う歌としての解釈も可能ではないでしょうか。

 

ずっと三人でいたい、友達のままでいたかったかずさとの別れ。それを経て、学園祭の時とは異なりこの歌詞の主人公の気持ちを自分のものとして受け入れることができてしまったのでないでしょうか。かずさに対する、もう二度と届かない、恋のような想いを歌う曲として。

 

4. おわりに

というわけで、今回の記事は曲考察でした。

書いてると楽しくなって文章量増えるのは仕方ないですね、楽しんでいただけたならうれしいです。

 

「届かない恋」は、作中で果たした役割もさることながら、歌詞を見ても様々な解釈ができるあたり、非常に素晴らしい楽曲だと思います。

音楽回りの知識もあれば、そこでも考察しがいがありそうなのですが、知識不足ですね……

 

今回の記事の執筆中にもまた新たな発見があって、まだまだWA2を味わえそうです。

では、最後までお読みいただきありがとうございました。